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天22章 国司下向(その六) [天海山河]

その頃、本山氏の居城、朝倉では、
「殿、好機にござりますぞ。どうやら御所の方にて、騒動がござった様子。蓮池を乗っ取るは、今にござる。」
と、家老の鵜来巣弾正が進言した。
茂辰はつい、吉井修理へ視線を向けた。
修理は苦虫を噛むのを堪え、小さく頷いた。
「よし、弾正、兵を調えてすぐに出立じゃ。」
と、茂辰は返答した。
「承知。」
と、弾正が一声して、飛び出して行くと、修理はその姿が見えなくなったのを見計らい、
「殿、恐れながら、斯様な儀にては、某を見てはなりませぬ。」
と、茂辰に注文をつけた。
「すまぬ。つい、そなたの意見を伺っておこうと思うてな。」
「なりませぬ。」
「ならぬか。」
「なりませぬ。殿のお心の弱さが家臣に映りまする。また、家来は殿がわがことばを信じぬと思いまする。ましてや鵜来巣殿は譜代の臣にござりまする。」
と、修理は言った。
無論、修理は、茂辰が狼狽えるのも無理はないと思った。
すでに、一条方の森山、秋山を手に入れているとはいえ、一条氏は土佐の半分を領する大身である。そのうえ、蓮池は土佐一の大河、仁淀川の向こうにあり、謂わば一条氏の懐から金子をかっ浚おうというのと同じである。
ー亡き梅慶様とて成せぬこと、遺業を継いだとはいえ、武者震いするのも無理はない。ー

それから間もなく、茂辰は六百騎をもって、仁淀川を押し渡り、蓮池の城へ攻め寄せた。
城は辺り一面深田や沼に覆われ、そのなかにぽつんと突き出た丘の上にある。
鵜来巣弾正はこの城を見て、
「この類いの城は厄介至極じゃ。」
と、感嘆した。
すると後ろから、
「左様でござるな。近寄れば足を取られ、上から矢攻めにされ、まさに手も足も出せぬ堅城といったところでござるな。」
と、修理が言った。
「修理殿、感心されては困る。」
と、弾正は憤慨した。
「いやいや、悪かった。して、鵜来巣殿、何か妙案でもござらぬか。」
と、修理は訊ねた。
弾正は、
「某は、あれにある家屋を取り壊し、城へ渡る橋にいたすが良いと存ずる。」
と、城の東にある高岡の集落を指差した。
「成る程、一計にござるな。」
と、修理は頷いた。
その様子に、弾正は少々苛立たしかった。
「では、修理殿は如何か。」
「某か。某には貴殿ほどのものはござらぬ。」
「ござらぬつか。」
弾正は拍子抜けした。
「されど、殿が仰せに、あの家屋を焼き払い、閧の声を上げ、しばらくして兵を引けとのことじゃ。」
と、修理は言った。
「閧の声を上げて、攻めぬとは、殿は如何なるお考えか。」
と、弾正は小首をかしげた。
「某も分からぬ。が、何か意とするところがあってのことじゃろう。」
と、修理は言った。
だが、実は、この策こそ、修理の献策であった。
修理はこのとき、茂辰に華を持たさねばならぬと考えていたのである。
ー一条とて、一朝一夕に落とせた城ではない。殿が此度の戦にて落としたとあれば、武名を土佐中に轟かし、家中の士気も上がるに違いない。ー

修理と弾正は兵を従え、高岡村に火を放ち、大音声を上げた。
城方は慌てて矢倉、塀の矢狭間に身を寄せて、無用の矢を射かけたが、攻めて来ぬと分かると、寄せ手の様子を窺った。
本山勢はこれを三日三晩繰り返したのである。
どれが本当の閧の声か分からぬ城方は戦々恐々の面持ちで、寝るに寝付けず、気の滅入る者まで出てきてしまった。
すると、次の朝、城下を見れば、寄せ手は一人もいない。
「さては我らが安心して、城から出たところを襲おうというのではないか。」
と、城方は四方に張った矢倉から山の端々を見遣った。
しかし、敵の気配はない。一日経っても、敵が舞い戻ってくる様子もない。
「さては弘岡に帰ったか。」
と、城方の兵どもは胸を撫で下ろした。
そして城兵どもは、一人、また一人と、まどろみに落ちていった。



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