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天18章 大備後小備後(その七) [天海山河]

その先には、馬上の江村親家がいた。
「現れたか、子わっぱ…。いや、小備後。」
それ聞いた親家は、苦笑した。
「何故小備後か。」
長秀は頬に飛沫した汗血を腕ぬぐいし、
「そなたの父も備後ならば、親子合わせて大備後小備後よ。」
と、返答した。
「なるほど。妙名なり。承った。いざ参らん。」
「望む所よ。」
長秀は愛用の大長刀を取り直し、馬の横腹を打った。
親家も太刀を取って、駆け出した。
「どう!」
と、長秀が大長刀を振りおろせば、親家も太刀で、
「えい!」
と、打ち払う。
数度打ち合い、しのぎを削るが勝負の行方はようとして知れない。
「小備後よ、なかなかやるではないか。」
「監物殿こそなかなか。」
今度は長秀が苦笑した。
「小僧が、謙遜など申すな。」
と、大長刀を投げ捨てた。
「いざ組まん。」
と、長秀は声を掛けた。
「心得たり。」
親家も太刀を投げ捨て、馬から飛び降りた。
修羅の渦中、両雄、むんずと組み合った。
互いに大力を誇る強者である。
監物が奥襟を取って力任せに投げようとすると、親家も下手を回して足で耐える。
今度は親家が腕を掴んで引き落とそうとすれば、監物が肩を掴んで踏ん張った。
しばらく、両雄大躯の力比べ。
一方、戦の趨勢は決していた。
山田勢は高名の武将が次々に討たれ、その数を僅にしていた。
さすがの監物もここに至って疲れは隠しきれぬ。
不意に上手を取られ、宙を舞った。
どしん 。
大きな音を立てて、長秀は地面に叩きつけられた。
「さあ、構えられよ。」
と、親家が声を掛けた。
長秀はおもむろに体を起こすと、
「もう、良い。」
と、返した。
「なんと申された。」
と、親家が訊ねた。
長秀は、笑みをこぼし、
「もう、良い。これで良い。ほとほと疲れたわ。貴殿にわしの首をやる。」
と、答え、兜の緒に手を掛けた。
すると、ふと、長秀は思い出した。
兜の緒を蝿頭(はいがしら)に固く締め、両端を切り捨てていたのである。
「小備後よ、このまま斬れるか。」
長秀は兜を着けたまま、首を指差した。
「心得た。」
と、親家は返した。
「そうか。それは心強い。」
と、長秀は念仏を唱え始めた。
親家は長秀の背後に回り、
「御免。」
と、一声して太刀を真一文字に薙ぎ払った。
漆黒の鎧が音をたててくずれた。
親家は長秀のみしるしを高々と掲げ、
「江村小備後、山田監物殿、討ち取ったり。」
と、名乗り上げた。
「備後がやったぞ。」
「みごと、備後、小備後。」
長宗我部勢に歓喜が上がる。
山田勢はみな最期を定め、勝ち誇る敵陣に駆け入り、長秀の後を追った。
辺りには細切れに散った曼珠沙華とともに、山田の勇将どもの躯(むくろ)が横たわった。
国親はその亡骸を丁重に葬り、塚を建てた。
のちにこのあたりは大塚と呼ばれた。

さて、楠目の城も大手を打ち破って押し入れば、すでに城主山田基義は大忍庄美良布を指して落ちていた。
夕刻、国親は親家を呼び、この日一の功名と称え、脇差を与えた。
「今宵より、そなたを小備後と呼ぼうぞ。」
「ありがたき仰せ。」
若武者はこの日より江村小備後と渾名され、土佐に武名を轟かすのである。


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コメント 1

bambiflex

コメント失礼します。出身が土佐というのもあり、全部拝見させて頂きました。とっても面白くて楽しませて頂きました!また続きが更新されるのを楽しみにしています(^^)
by bambiflex (2016-03-24 21:58) 

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